< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 

 

 

 

 たのむ!! 間に合ってくれ!!

 そうメティちゃんの無事を願いながら俺はエステバリスを全速力で飛ばし、

 テツヤからの通信を逆探知で発見した場所に向かう。

 

 着いたのは倒壊寸前の廃ビルだった。

 俺は無我夢中で一つ一つ部屋を周りメティちゃんをさがした。

 

(どこだ!? 何処にいるんだメティちゃんは!?)

 

 一階二階と順に探していくが見つからない。

 

(くそっ!! こうしている間にもメティちゃんが!!)

 

 そして三階に上がり出した時、鼻に今最も望まない匂いを感じた。

 

「血の・・・臭い・・・

 メティちゃん!!」

 

 俺は否定しながらも最悪の結果を頭に浮かべ、

 血の臭いのする方に走った。

 

「メティちゃん!! ここにいるのか!?」

 

 そして血の臭いの流れ出す部屋に駆け込むと、

 部屋の真ん中に出来た血溜まりの中にメティちゃんが倒れていた。

 

 

「メティちゃん!!!!」

 

 

 俺は横になっているメティちゃんを抱き上げて怪我の容態を見る。

 

 

 

 ・・・見るに堪えなかった。

 

 

 メティちゃんの体の至る所に切り傷があり、そこから血を流し続けている。

 顔に血の気がほとんど無く、明らかに致死量に達する血を流している。

 

 その上、傷の場所は全て急所を外している。

 どう見ても狙って傷を付けているようにしかみえない。

 おかげでメティちゃんはすぐに死ぬ事はないが、

 それまで傷の痛みに苦しみ続ける事になる。

 

 テツヤ!! こんな小さい子になんてえげつない事を!!

 

 

「・・・これは?」

 

 近くの床に折り畳まれた紙切れが落ちていた。

 俺はそれを拾い上げて中を見る。

 

 

【英雄様よ、その子の最後が看取れたか?

 すぐに死んじまわないようにしといたからな。

 ありがたく思えよ。】

 

 

 紙切れにはそう書かれていた。

 くそ!! やっぱり故意にやったのか!!

 

「うぅ・・・あぁ・・・

 アキ・・・ト・・・お・・・兄・・・ちゃん。」

 

 メティちゃんが呻きながら俺を呼ぶ。

 意識が戻った!?

 

「メティちゃん!! メティちゃん!!」

 

 俺はメティちゃんに呼びかける。

 そしてメティちゃんは俺のほうを見て・・・

 

 

 ゆっくり微笑んだ。

 

 

 だが、すぐにまた目を閉じてしまった。

 

「メティちゃん? メティちゃん!!!

 

 俺は今まで以上に呼びかけるが反応が無い。

 メティちゃんの状態を調べる。

 既に呼吸がなく、脈も弱くなってきていた。

 

(どうすればいいんだ。

 今から病院に連れていっても間に合わない・・・

 そうだ!!)

 

 俺はポケットの中から紅い玉を取り出す。

 これはここに来る前にシンジくんに渡されたものだ。

 もしもの時にこれで連絡出来るらしい。

 

 シンジくんならメティちゃんを助けられるかもしれない。

 確かこれを持ったままラピスとリンクするようにやればいいはずだ。

 

(シンジくん!! 聞こえるか!? シンジくん!!)

 

 そして少しの間の後に、

 

《聞こえてますよアキトさん。

 そんなに慌てて何かあったんですか?》

 

 すぐに返事が帰ってきた。

 

(説明している暇がないんだ!!

 すぐにこっちに来る事は出来ないか!?)

 

《出来ますがそれを他に人に見られるわけにはいかないので、

 周囲の確認をしてくれませんか?》

 

(わかった!!)

 

 周りを見ると幾つか隠しカメラや盗聴機のような物が見られた。

 メティちゃんを俺が看取るのを覗き見していたか!!

 

「アキト!! メティちゃんは!?」

 

 その時、ナオさんがここに駆けつけてきた。

 

「ナオさん、丁度よかった!!

 この部屋にある隠しカメラや盗聴機を全部取り除いて下さい!!」

 

「何? 一体どうしてまた?」

 

「いいから急いで下さい!!!

 時間が無いんです!!!」

 

「わ、わかった!!」

 

 ナオさんが壁の周りを探すと幾つか出てきた。

 

「テツヤめ、こんな物まで用意してたのか。

 つくづくゲスな男め!!」

 

 そう言って出てきた機器を踏み潰す。

 

「これで全部の筈だぜ、アキト。」

 

「ありがとうございます。」

 

 ナオさんがいるが仕方が無い。

 俺は再び紅い玉に意識を向ける。

 

(悪いが一人知り合いがいるんだ。

 信用出来る奴だから何とかならないか?)

 

《わかりました、一刻を争うようなのでしかたありません。

 今すぐそちらに向かいます。》

 

 よし、シンジくんが来てくれれば。

 後は・・・

 

「ナオさん、これから起こる事を決して他言しないで下さい。

 約束してもらえますか?」

 

「あ、ああ。 だが一体これからなにが起こるんだ?」

 

「それは・・・」

 

 その時、目の前の床に黒い染みのような物が突然広がり、

 そこからシンジくんが姿を現した。

 

「な!?」

 

 ナオさんが驚きの声を上げるがそんな事を気にしている暇はない。

 俺はすぐにメティちゃんをシンジくんに診せる。

 

「シンジくん、たのむ!!

 この子を何とか助けられないか!?」

 

 シンジくんはメティちゃんを見て、驚いた顔をし、

 

「一体この子に何があったんです!!

 切り傷だらけな上、全て急所が外れている!?

 ・・・いえ、そんなことを聞いている暇はありませんね。

 その子を渡して下さい、すぐに治療します。」

 

 俺は言われた通りメティちゃんの体をシンジくんに預ける。

 シンジくんはメティちゃんの体を抱えると、

 背中から二対四枚の紅い翼を生やして自分とメティちゃんを包み込んだ。

 

 

「!!!!」

 

 

 ナオさんが驚きに目を見開くがこの際無視だ。

 

 翼以外のところも紅い光に包まれていく。

 するとメティちゃんの体にも変化が表われ始めた。

 出血も止まり体の傷口が塞がり始め、顔色もだんだん良くなってきた。

 

「一体なにが起こっているんだ・・・」

 

 ナオさんは開いた口が塞がらないまま、目が離せないでいる。

 俺もシンジくんの力が人の怪我を治せるかまではわからなかったので、

 メティちゃんの容態が良くなっていくのを見守る。

 そして包んでいたシンジくんの翼が赤い光と共に開放された。

 

「ハァ、もう大丈夫ですよ。」

 

「メティちゃん!!」

 

 シンジくんに抱えられているメティちゃんを見ると、

 さっきまでの悪い容態が嘘のように気持ち良さそうに寝息を立てている。

 よかった、一時はどうなるかと思った。

 

「ところでアキトさん、一体何があったんです?」

 

「俺も聞きたい事がある。

 一体なにが起こったというんだ?」

 

 二人が同時に俺に聞いてくる。

 俺はまずシンジくんにこれまでの事を説明した。

 

 

 

 

 

 

 アキトさんから説明された事。

 それはクリムゾン・グループがアキトさんを手に入れる為に、

 親しい関係を持つこの子を攫い人質にするというものだった。

 無理にでもこの子を取り戻すつもりだったが、

 アキトさんのいる基地にスパイが潜んでいたらしく、

 そのためにこの子が殺されるところだったらしい。

 こんな幼い子になんてことを・・・

 

「アキトさん、じゃあ戻ったら・・・」

 

「ああ、メティちゃんを殺す手引きをした奴を俺は許すつもりはない。

 殺さなくとも、それ相応の苦しみは味わってもらうつもりだ。」

 

 アキトさんの心が漆黒に染まっている。

 初めてDFSを奮ったあの時よりも・・・

 

「そうですか、そのことを僕は口出しする事は出来ませんね。

 でもアキトさん、決して感情に身を任せ過ぎないで下さい。

 傷つくのは結局自分ですから。」

 

「・・・ああ、だがもうラピスに迷惑を掛けてしまったらしい。

 俺の感情の高ぶりでラピスの心にだいぶ負荷を与えてしまった。

 ショックで気を失ってしまったみたいだ。」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「わからない、気がついてリンクが繋がらないと。

 本当に俺は周りに迷惑ばかり掛けるな・・・」

 

「いえ、気にしないでください・・・」

 

 こんな気遣いでは慰めにはならないだろうが、

 こんな言葉しか今のアキトさんには思いつかなかった。

 

「あ〜・・・そろそろいいか?

 アキト、この子は一体誰なんだ?」

 

 さっきからアキトさんと一緒にいた二十代後半位の男性。

 アキトさんが信用出来ると言ったからかまわないけど、

 僕について疑問に思っている。

 まあ、当然だとは思うけど・・・

 

「彼はシンジくんと言って俺の仲間です。

 それ以上の事は今は言えません、すみません。」

 

 そして少し考え込んで・・・

 

「・・・まあ、アキトが仲間というんだからいいか。

 ヤガミ ナオだ、ナオって呼んでくれ。」

 

 そう右手を差し出して握手を求めながら言う。

 僕の力を見ながらも気にせず話しかけてくれるところに好感を覚えた。

 僕も握手に答えながら、

 

「イカリ シンジです。

 よろしく、ナオさん。」

 

 自己紹介をした。

 

「それでアキトさん。

 この子、メティちゃんの事はこの後どうするんです。」

 

「・・・出来れば、事が終わるまでシンジくんが預かってくれないか?」

 

「おい、アキト!!

 それじゃあミリアが!!」

 

 ナオさんはアキトさんの考えに反対する。

 

「良く考えて下さい、ナオさん。

 テツヤはおそらくメティちゃんが死んだと考えてる筈です。

 それが生きている上、傷一つなければ明らかにおかしいと考えられます。

 それにまたメティちゃんが狙われる事になるかもしれません。」

 

「なるほど・・・だがミリアやメティちゃんのお父さんにどう説明すれば?」

 

「表向きには殺されたことにして、

 本当は安全な所に匿っていると言うしかないですね。」

 

「わかりました、この子の事は任せて下さい。」

 

「ありがとう、シンジくん。」

 

 こうして僕はメティちゃんを連れてアフリカへ帰った。

 だが、数日も経たないうちに再び西欧に来ることになる。

 新たな悲劇を回避する為に・・・

 

 

 

 

 僕は基地内の監視もなく人気の少ない場所にディラックの海を展開し、

 そこから虚数空間を通って出てきた。

 

「う・・・んん・・・

 あれ・・・ここはどこ?」

 

 そしてメティちゃんが目を覚ました。

 

「おはよう、メティちゃん。

 そしてはじめまして。」

 

「え、天使様?」

 

 え、天使?

 もしかして僕の事?

 

「えっと、どうして僕が天使なのかな?」

 

「だってお兄ちゃん、羽根があるもん。

 赤いけど。」

 

 あ、しまった。

 翼を出しぱなしだった・・・

 

「ねえ、天使のお兄ちゃん。

 私、死んじゃったの?

 もうアキトお兄ちゃんやお姉ちゃんに会えないの・・・」

 

 俯いて泣きそうな顔をするメティちゃん。

 攫われてすごく痛い目にあって気がつくと誰もいない。

 この年頃の子にはとても辛いんだろうな・・・

 

 僕はメティちゃんの体を優しく抱き締めてあげる。

 

「大丈夫、アキトさんは今悪い人と戦ってるんだ。

 今は会えないけど悪い人をやっつけたら会えるよ。

 それまで僕が君を預かる事になったんだ。

 だから今は我慢してね。」

 

「う、うん(真っ赤)」

 

 メティちゃんは顔を赤くしながら頷く。

 やっぱり小さくても女の子って事なのか。

 慰めるのに抱き締めるってのはまずかったかな?

 

「ねえ、天使のお兄ちゃん。

 名前なんて言うの?」

 

「イカリ シンジだよ。

 それと僕の翼の事は秘密にしてね。」

 

「どうして?」

 

「天使がこんな所にいたらおかしいでしょ。

 だから、ね。」

 

「う〜ん、よくわからないけどわかった。」

 

「ありがとう。」

 

 そして僕はメティちゃんと共に基地の中へと帰っていった。

 

 その後、バール少将に呼び出されたときのお礼を含めて、

 クラウリアさんの元にメティちゃんの事について相談を持ち掛けた。

 

 メティちゃんを預かる事については意外にも簡単に許可が出された。

 ただし、僕が責任を持ってメティちゃんの面倒を見る事が条件。

 まあ、これは当然だと思ったので何も問題なかった。

 

 僕の部屋に新しくベットが設置され、

 今はそこでメティちゃんは寝てる。

 

「・・・アキトお兄ちゃん。

 ・・・お姉ちゃん。」

 

 寝言でアキトさんや家族の名を呼ぶメティちゃん。

 その瞼には薄っすらと涙が浮かんでいる。

 

 やっぱり突然知らない場所に来て、

 家族と離れ離れになって寂しいんだろうな。

 

 

 

 それにしてもアキトさんも僕と同じように、

 馬鹿な権力者達から狙われるようになったのか・・・

 

 僕のほうも何らかの対処法を考えておいたほうがいいな。

 今回の場合は僕がすぐに駆けつけられたから何とかなったけど、

 メティちゃんが恐い目にあってしまったのは事実。

 そんな思いを誰にもさせたくない。

 例えすべてを守ることが出来なくても、

 僕の手の届く範囲で助けられる人を助けたい。

 

 だからアキトさんもはやくメティちゃんの居場所を取り戻してあげて下さい。

 この子を本当に救えるのはアキトさんだけなんですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

アフリカ編 第四話へ続く


 あとがき

 

 こんにちわ、お久しぶりです、一年ぶりです。

 て言うか、一年以上ほっぽっちゃったよ・・・

 まだおぼえているひといるかな・・・

 

 最近やっとラグナロクオンラインのハマリ具合が収まってきたので少しだけかけるようになりました。

 ずっと放っておいて言えることじゃないですけど、途中で終わらせちゃうのはどうかと思うので、

 何とか、今後も少しずつは書いていこうと思ってはおります。

 

 一度自分で読み返したり改装したほうがいいと思うところもありますので、

 次回の更新も正直いつになるのかわかりません。

 頑張れるかどうかはわかりませんが見る人がいましたら見てください。

 

 それでは・・・

 

 

 

 

 

感想代理人プロフィール

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代理人の感想

んーまぁ、良くも悪くもベタというか。

彼女が助かる事自体はさほど問題ないんですけどねー。